常夏のクアラルンプールから冬の日本へ帰国。翌日から仕事でいきなり現実に戻される。渡航前から喉の調子悪く現地で悪化、食べ物もある程度気を付けていたけど、屋台めし久しぶりだったからかお腹を少し下した。しかしながら3日間、ライブ2本、レクチャー、上映とフル出場で何とかやり切って、素晴らしく充実した滞在だった。
Kuala Lumpur Experimental Film, Video & Music Festival (KLEX)
今年で8回目の開催。数年前までは映画のみだったはずで、音楽も取り込んだのは最近の事。恐らく主宰のSiew-Wai がボイスパーフォーマーとして音楽を積極的にやり始めたことと、パートナーの即興サックス奏者Yandsenの影響もあるだろう。アーティストラン・フェスティバルと自称している通り、作家、ミュージシャンの手で運営されている。
会場は2つに分かれていて、ともにKLチャイナタウンの隣同士の古ぼけたビル。ライブのリハ、レクチャーなどで時間をとられ、昼間の上映プログラムはあまり余裕がなく4プログラムしか観れず。アジア勢は私的なイメージ映像のようなものが多かった。印象に残った作品はあまりないが、お客さんは学生・アーティストが多く、みな英語を流暢に話すインテリ層。ライブ出演者もちらほら。地元の人がふらっと観に来るような感じではなかった。集客は結構厳しい感じ。
ライブは4年前に出演したRAW art space(旧Findars)。出演者はアジア勢多め+世界各地からツアーで来ているミュージシャン。Siew-waiの進行アナウンスから始まり、客も乗りが良く盛り上がる。連日ものすごい熱気だった。
1日目のライブは21:30開演。やっぱりきっちりと時間通りに始まらないので、22時過ぎにスタート。この感じ久々だけど好き。カナダのアンプリファイド管楽器デュオSound of the Mountainとの初めての共演。私は2台のカメラとろうそくによる光学現象の観察。クラリネットとトランペットのブレスや濁った音が山から吹き下ろす風のように表情を変え、拡大されて左右のスピーカーから飛び交ってくる。私のカメラも拡大鏡のような役割を果たすので、火の揺らぎと相まって、とても相性のいいトリオだったと思う。今回のフェス一番の大きな収穫と言ってもいい。またいろいろな場所で一緒にやりたい。
Will Guthrie (AU)の手数多めドラムソロ、 Yuen Chee Wai (SG)& Yong Yandsen (MY)=ギターフィードバックとサックスのデュオも渋目で良かった。
photo by Wong Yok Teng
http://www.tengwong.com/
2日目は午後から自分の3作品の上映プログラム。新作”time space motion”がすこぶる評判良く、皆しきりに良かったと言ってくれた。ああいったスローで地味な作風が果たして受けるのか興味津々、半分心配だったが、どこの国においてもこういったフェスでは杞憂のようだ。上映の進行とQ&Aをしてくれたクリスは映像の事をかなり詳しく知っていて、後から調べたら作家のCHRIS CHONG CHAN FUIだった。映像作品も数年前観てるし、恵比寿映像祭でも人工の花を使ったインスタレーションを展示していた。
http://www.chongchanfui.com/BLOCK-B-1
http://www.chongchanfui.com/ENDEMIC
夜のライブの部は、ヴァンバイザー学派の演奏もするらしい静謐な弱音系ラップトップ&ギターデュオ Jameson Feakes & Josten Myburgh (AU)、映像と自作の装置とバイオリンで一人芝居みたいなことやって、最後にカッティングマシーンでレコード削るおもろいおっさんMonteith McCollum (US)が印象に残った。アジアの若手はみな結構激しいノイズをやっていた。
3日目の昼はアーティストレクチャー。
「Film as material」
「Video as device」
というキーワードで、制作意図、メディアの使い方についてしゃべるつもりで英語を準備していったが、うまくしゃべれずグダグダで終わる。「あなたの作品がちゃんと喋ってくれているから伝わっているよ」と言ってくれる人もいたので、まあ何と優しい奴らだろうと思った。英語の事で心配していた上映とレクチャーが終わり、あとは夜の最後のライブだ、と思うと俄然やる気が出てくる。
最後の出番はマレーシア随一のインプロサックス奏者Yong Yandsenとフェスの主宰でビデオ作品も作り、声でパフォーマンスもするSiew-Wai Kokとのトリオ。4年ぶり2回目の共演。1回目は映像作品”passages“と、今回は空間投影パフォーマンスでの共演。リハ中の思い付きで前半は床にプロジェクターとミラーを置いて映像を俯瞰するように見せた。これが結構良かった。1日目も奇跡の思い付きが功を奏して、こういうのは非常に楽しい。お互いのことをよく知っているし、さすが熟練の演奏者たちなので、邪魔し過ぎず近づき過ぎずいい距離感でできたと思う。お客さんの反応も非常に良かった。また来てくれよな!とか詳しい話を突っ込んできたりするお客さん、俺の国に来たらツアーしようぜ!といってくれる出演者も沢山いて、大きな手ごたえを感じた。Sound of the Mountainの2人はこの後、オーストラリアのパースでアーティストインレジデンスするらしく、早速私の作品を上映したいと言ってくれた。なので好きに音を付けていいよ!といっておいた。
あっと言う間に3日間が終わり、非常に名残惜しいなか翌日昼の便で帰国した。ところで、旧FINDERSは諸事情あり共同運営メンバーの数人は同じビルの屋上で新しい屋外スペース”MOUTOU”を創設。フェス前夜、友人たちへ挨拶しに土産を持って行った。たまたまインドネシア人芸術家のレセプションパーティーがあったようで現地のムスリムと華僑の若者達で盛り上がっていた。ここがまた景色の良い最高のロケーションで、おしゃれなDIY屋上庭園となっていた。また必ず来る。
最後に、渡航と滞在を支援していただいた国際交流基金マレーシアに感謝いたします。